事実婚と法律婚

婚姻届を出さずに結婚生活をする事実婚を選択する人たちが増えています。事実婚とは、一般に婚姻届を出していないが、結婚の意思があり夫婦同然に共同生活の実態がある状態を指します。内縁関係と呼ばれることもあります。内閣府などの調査によれば、30~50代の男女では、年代を問わず事実婚をしている人が2~3%ほどいるとされています。仕事の都合で姓を変えたくないなどの理由で、事実婚を選択する人は近年増えています。
公的な医療保険(健康保険)は、事実婚を法律婚と同様に扱っています。会社員などが加入する健康保険では、通常、年収が130万円未満といった要件を満たすと、配偶者は被扶養者となり、保険料を払わずに済みます。事実婚でも条件を満たせば被扶養者となれます。事実婚では、パートナーが加入する健康保険組合などから、2人の関係を示す証拠を求められる場合があります。公的年金も事実婚に対応しています。法律で事実婚を法律婚同様に扱うと定めており、パートナーが亡くなった場合には遺族年金を受け取れます。
一方で税金の扱いは、事実婚と法律婚で明確に差があります。一定以下の所得金額の配偶者がいる人の所得税を軽くする、配偶者控除や配偶者特別控除は事実婚では認められません。税法では配偶者について定義しておらず、婚姻届を出していなければ配偶者と認められません。相続はさらに厳しく、事実婚ではパートナーの法定相続人にはなれず遺留分もありません。遺言により遺産をパートナーに渡すことができても、相続税で不利になることがあります。法律婚とは異なり、配偶者向けの優遇制度が使えません。
事実婚のカップルに子どもが生まれた場合、一般に子どもは母親の戸籍に入り、その姓を使います。親権は母親が単独で持つことになります。自動的に両親に共同の親権が与えられる法律婚とは異なります。何もしないと父親との法的な親子関係が無く、父親の相続人になれないなどの制約が出てきます。そのため事実婚の夫婦では子どもが生まれたら、父親が認知するといった手続きをすることが多くなります。家族の中で名字は異なっていても、法律上の父子、母子の関係は認められます。いずれの親が亡くなった場合も、子どもは法定相続人になれます。
こうした税制や遺産相続などでみられる事実婚の不利益を無くすことも大切ですが、まず第一に行うべきことは、選択的夫婦別姓を認めることが必要になります。

(2022年10月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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