他人のiPS細胞の利用

 理化学研究所などが、他人のiPS細胞から育てた細胞を目の難病患者に移植する臨床研究を始めます。来年前半にも手術する予定になっています。備蓄した他人のiPS細胞を使うのは初めてです。京都大学はiPS細胞ストックを整備し、多くの人に移植できる特殊なiPS細胞を作って備蓄しています。免疫による拒絶反応が起こりにくく、細胞の品質も厳重に確認しています。別の人に移植しても免疫拒絶を起こしにくい特殊なiPS細胞を京都大学が提供することになります。理研が網膜細胞に育て、大阪大学と中央市民病院で患者に移植する予定です。
 もともとiPS細胞は、患者本人から作製し、必要な組織に育てて移植すれば拒絶反応なしに使えるのが大きな利点とされてきました。しかし、患者1人ずつからその都度細胞を作ると1年程度かかり、タイミングよく治療できない懸念がありました。また作製費も1億円もかかります。そこで拒絶反応を起しにくい免疫タイプの人の細胞を予め準備して使うのが、より現実的であるとのコンセンサスができつつあります。他人の細胞でも治療に使えることになります。
 iPS細胞から体の様々な細胞を作って移植すると、がんになる場合があります。そのため、海外では、最先端のiPS細胞よりも、扱い慣れた別の万能細胞の方が治療を早く実現できるとの考えもあります。米国では、受精卵から作るES細胞を使う目の難病治療も進行中です。また特定の細胞に育つ体性幹細胞の応用も広がっています。

(2016年6月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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