医学的適応でない卵子凍結の増加

読売新聞の調査によれば、 将来の妊娠・出産に備えて健康な女性が卵子を保存しておく卵子凍結も体外受精を行う医療機関を対象に調査したところ、3割が実施していると回答しています。このうち半数近くが、2020年以降に開始しており、自治体や企業による費用助成制度などで関心や需要が高まり、実施施設が増加しています。

 

すぐに妊娠・出産する予定がない女性が、卵子の老化で妊娠しにくくなることを懸念して行う卵子凍結は、社会的適応の卵子凍結とも呼ばれています。放射線や抗がん剤のがん治療で妊娠できなくなる恐れがある人などが行う医学的適応の卵子凍結とは区別されています。いずれも公的医療保険は適用外ですが、医学的適応については、国や自治体からの助成制度を受けることが可能です。
東京都が2023年秋に始めた凍結費用の助成事業も、広がりを後押ししています。卵子凍結は公的医療保険の対象外で、1回の採卵・凍結に30万~50万円程度かかるほか、保管には年数万円の更新料が必要です。都は説明会への参加などを条件に、最大30万円を助成しています。2023年度の利用は200件程度と想定していましたが、申請は1,467件に達しました。都はニーズが高いとして、今年度も事業費5億円で継続しています。山梨県も今年度から助成を始めます。
卵子1個あたりの出産に至る確率は4.5%~12%で、妊娠・出産には10~15個の卵子が必要となります。卵子を凍結しておいたからといって、全ての女性が妊娠できるわけではありません。その女性の年齢や環境によって、卵子凍結のメリットとデメリットのバランスは異なります。正しい知識の下でしっかり考えて選択することが必要になります。卵子凍結が少子化対策として社会に与える影響は限られていますが、妊娠出産の計画を考えるきっかけになり、出産とキャリアの両立を希望する働く女性の選択肢の一つとして考えても良いかもしれません。
福利厚生の一環として、卵子凍結を支援する企業も出ています。出産とキャリアを両立する環境を整え、優秀な人材の定着を狙い、海外のみならずわが国の企業でも、助成制度を導入できるようになってきていることは評価できます。しかし、これまでの卵子凍結を使用して生まれた子どもは1割未満であり、この医療技術に対する公的助成については疑問の余地が残ります。

(2024年5月12日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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