医師の2024年問題

政府は、時間外労働に罰則付きの上限を定める働き方改革関連法を2019年に施行しました。一般産業界の残業ルールは、時間外労働の上限を原則として月45時間、年360時間とした上で、労使が合意した場合の特例として年720時間まで認めるというものです。
しかし、医療業界では過重労働が定着していたため、すぐには実施できませんでした。物流業界や建設業界などとともに、2024年4月まで猶予期間が与えられていたのです。医師に適用するルールは、勤務する医療機関の特性や医師の習熟状況によって特例を3つに分けます。時間外労働の上限を年960時間とするのを基本としつつ、救命医療など緊急性の高い医療を提供していて地域医療を確保するのに必要と判断された場合や、研修医や専攻医が診療現場で集中的に技能の習得を目指す場合などには、年1,860時間まで時間外労働の上限が緩和されます。
2022年に行われた医師の勤務実態調査によれば、時間外労働が年960時間を超えている勤務医が21.2%もいました。最も緩い1,860時間の上限も上回り、1,920時間を超えても働く医師も3.6%いました。時間外労働が年960時間を超えている医師の多くは、大学病院や救急患者を受け入れている病院で勤務し、診療科で見ると救急、外科系、産科などに集中しています。こうした医療現場は慢性的な人材不足を医師の長時間労働で補い、何とか成り立たせているのが実態です。
2008年度から医学部の定員を増やしたことで、全国の医師数は毎年3,500~4,000人ずつ増えているのが現状です。2029年頃に医師の需給は均衡し、その後は人口減少によって医師は過剰になるとみられています。問題は医師の総数ではなく、診療科や地域によって偏在していることにあります。近年はワーク・ライフ・バランスを重視する若い医師が増え、夜勤や長時間労働が多い外科や産婦人科、救急部門を希望する医師が減っています。こうした診療科を志す医師を増やすためにも、病院の働き方改革は避けて通れない課題といえます。
若い医師ほど女性の割合が高くなり、20代では35%が女性です。育児と両立できずに離職する女性医師を減らすためにも、働き方改革は急務となっています。これは医師以上に人材難が深刻な看護師にも当てはまります。カギを握るのは医師の業務の一部を他職種に移管するタスクシフトです。一定の研修を修了した看護師は、人工呼吸器からの離脱や薬の投与量の調節など38の医療行為を行えます。ただ人手不足は看護師も深刻です。

(2023年12月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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