参院選挙の一票の格差について憶う

最高裁判所大法廷は、一票の格差が最大3.03倍だった昨年7月の参院選は投票価値の平等を求める憲法に反するとして、二つの弁護士グループが選挙無効を求めた訴訟で、合憲とする判決を言い渡しました。是正の具体的進展がないと国会の姿勢を批判しつつ、議論が続いていることを評価し、弁護士らの上告を棄却しています。
大法廷は、2019年の参院選の最大格差3.00倍を合憲と判断しました。昨年参院選は、是正策がとられないまま同じ選挙区割りで実施され、格差はわずかに広がっていました。判決では、衆院選では議員定数を人口に応じて増減させる仕組みが導入された点に触れ、参院選でも引き続き格差是正と再拡大を防ぐための取り組みが求められると指摘しています。
最高裁判所は、2010年選挙(最大格差5.00倍)と2013年選挙(最大格差4.77倍)を違憲状態としましたが、格差是正のため、隣り合う選挙区を統合する合区を導入した2016年選挙(最大格差3.08倍)、改選定数を1増やした2019年選挙(最大格差3.00倍)は、合憲と判断しています。今回の判決では、合区が維持され、最大格差が3倍程度で推移していることを評価しています。
合区の対象県では、投票率の低下や無効投票率の上昇がみられています。選挙への関心や投票行動に影響を与えていることがうかがわれます。合区の副作用とも言える現象が起きている原因について、判決は有権者には都道府県ごとに国会議員を選出するとの考え方がなお強いと指摘しています。仕組みの見直しには、広く国民の理解も得ていく必要があります。
都道府県は重要な政治的なまとまりで、参院議員に地域代表的な性格を持たせること自体を否定するべきではありません。参院の役割についての議論を深め、一票の格差にとらわれない仕組みを考える段階に来ています。地方創生のためにも、一票の格差ばかりを主張する弁護士グループの考え方には賛成しかねます。合区された選挙区での投票率の低下は当然の帰結です。地方からの都市部への人口流入が続く限り、今後も格差は広がってゆきます。地方の声や意見を反映させるためにも、一票の地域格差はあってしかるべきと考えます。今回の最高裁判所の判断は妥当と思われます。

 

(2023年10月19日 朝日新聞・読売新聞)
(吉村 やすのり)

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