女性手帳報道に憶う―Ⅱ

日本には「母子手帳」という世界には類をみない手帳があります。これは母親となる女性が妊娠した際に地方自治体から配布される手帳で、子どもの記録が主体です。生命と女性の手帳の発行は、人の生殖に関する知識の啓発の観点からも、個人のメディカルヒストリーを示す手帳のようなものがあってもよいのではという発想から生まれました。不妊に関することでも、原因の40%は男性であること、妊娠や子育ては男女二人の問題であることなどを考慮すれば、女性のみならず男性にもマイノートのようなものがあるべきだと思います。マスコミ報道では、女性だけに配布するとされましたが、本タスクフォースでは当初から男性の教育や啓発がより重要であるとの指摘がなされ、男性にどのようにして情報を伝達するかが議論されていました。妊娠・出産・育児を女性だけに押しつける考えは全くなく、逆に男性の協力の必要性が強調されていました。この点がマスコミに理解されず、誤った報道がなされたことはとても残念でした。今後は本タスクフォースのような国民の生き方や家族のあり方など、将来へ向けた社会の方向性を示す議論は公開の場で行われるほうがよいと思いました。

少子化危機突破タスクフォースでは、今回の緊急対策として、1.子育て支援 2.働き方改革をより一層強化するとともに 3.結婚・妊娠・出産を“第3の矢”として推進することを挙げました。少子化の危機を乗り切るためには、女性が子どもを産んでも仕事を継続できるような施策が必要なことには贅言を要しません。子育て支援には子ども・子育て関連3法が平成27年度より実施され、働き方改革には子育てと仕事の両立支援など官民一体となっての支援が実施されることになっています。これには消費税引き上げによる財源が充てられることになっています。そこで今回のタスクフォースでは極めて個人的な問題としてタブー視されていた結婚や妊娠の問題に踏み込み、これまで手つかずであった結婚・妊娠・出産をトータルに支援することを考えました。わが国においては、シングルマザーの頻度は子どもをもつ女性の2%前後であり、欧米に比して極めて低率であり、未婚で子どもを持つことは極めて稀であると考えられます。近年、結婚を希望しているにもかかわらず生涯の未婚率は年々上昇していることからも、結婚や妊娠の支援もまた少子化対策の一つになり得るものと考えられます。

情報提供の一手段として考えられたのが、例えば「手帳」ということであり、現代の状況を考えれば紙媒体ではなく、スマートフォンなどインターネットを活用した媒体も有効かもしれません。とにかく若い男女に対して妊娠や出産ということを考えてもらう機会を提供してあげることが大切であると考えました。こうした情報は、日本産科婦人科学会などの学術団体でまず医学的見地から素案をまとめ、教育や啓発のために必要な行政・予算措置は内閣府で考える、これがあるべき姿であると思われます。                             つづく

(吉村 やすのり)

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