女性起業にガラスの壁

女性が起業で苦戦しています。日本でスタートアップを創業して資金を調達した女性の割合は金額ベースで2%程度と欧米の10分の1にとどまっています。上場企業の役員に占める女性の割合は、2013年の1.8%から2023年に10.6%に増えた一方、起業を阻むガラスの壁はなお厚いままです。
2026年3月までに会社を設立する場合、100万円を支給する補助金がありますが、受け取るには原則半数以上のプログラムへの参加が条件になります。公的機関からの補助金は、ベンチャーキャピタルから資金提供を受ける際、有力な交渉材料になりますが、支援プログラムへの参加が条件が厳しく、起業をためらいがちになります。
金銭的な負担の軽減につながるはずの育児休業給付金を、経営者は受け取ることができません。さらに創業者か社長が女性の企業が手にした資金調達額の割合は2%に過ぎず、資金調達額に占める女性創業者の割合が26%の米国、20%の欧州に比べて少なく、日本はジェンダーバイアスが深刻です。
こうした状況を生み出す原因の一つがベンチャーキャピタル自体にあります。ベンチャーキャピタルで投資の意思決定を担う幹部層に占める女性の割合は、米国の16%、欧州の15%に対して、日本は7%にとどまっています。起業家や投資家同士の情報交換や交流は、夜に開かれる飲み会などで行われるという慣習があり、子育て中の女性は重要な情報にアクセスしにくい状況にあります。投資案件を発掘するキャピタリストを含めたベンチャーキャピタルの女性比率は、15.6%に増えていますが、昇進や昇給で男性に遅れがちで、女性の年収は男性と比べて14%低くなっています。
育児などで時間に制約がある上、若い女性は頼りなく見えるといったアンコンシャスバイアスを払拭することは、わが国においては難しく、資金調達に向けても強くて逞しい女性を演じなければならないような状況がみられるのは残念です。性の多様性が起業や新産業の促進につながるとの認識が大切です。

(2024年5月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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