宇宙植民地主義

19世紀末、欧州列強は先に占領した国がその植民地を得る先占権を持ち出し、早い者勝ちでアフリカを分割しあいました。現在、同様の構図が宇宙にも及び、新植民地主義とも言うべき、進出競争が激しさを増しています。
米国と旧ソ連が覇権を争った20世紀、宇宙開発は莫大な予算と先端技術を持つ2大国の独壇場でした。2013年に中国が月面に探査機を送り、2023年にはインドが続きました。日本も月着陸を送り追いつきましたが、台頭著しい新興国はさらに先を走っています。調査会社ユーロコンサルによれば、世界67カ国・地域が、宇宙開発に年1千万ドル以上を投じています。サウジアラビア、トルコ、南アフリカなど、国際社会で存在感を増す新興国ほど予算の伸びも大きくなっています。
米航空宇宙局(NASA)が中心となって進めるのがアルテミス計画です。アポロ計画以来、約50年ぶりに月に宇宙飛行士を送ることを狙っています。計画推進に向け、米国は宇宙の平和利用に関するアルテミス合意への署名を世界各国に働きかけています。法的拘束力のない原則で、領有はできないものの採掘は可能としています。日本や欧州各国のほか、エクアドルやナイジェリアといった南米、アフリカ諸国、インドも参加しています。
一方、対抗軸として中国とロシアが進めるのが、国際月研究基地(ILRS)計画です。2030年代に月に無人基地を建設する予定で、将来的に有人基地として利用します。ILRSには、パキスタン、アラブ首長国連邦に加え、エジプトが8カ国目となる参加を決めています。両陣営が月を巡って陣取り合戦をする背景にあるのが、資源開発です。月には有人活動に欠かせない水資源が存在する可能性が最近の研究で明らかになっています。

 

(2024年1月24日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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