少子化は克服できるか

政府の異次元の少子化対策は、年3.5兆円規模のかつてない事業費を見込んでいます。政府が少子化対策に力を入れるのは、出生数が想定外のスピードで減っているからです。年間の出生数が120万人から100万人まで減るには、2000年から概ね15年かかりました。2016年に100万人の大台を割ると、2022年には約20万人減って77万人にまで落ち込みました。その間、わずか6年です。静かなる有事とも言われる危機的な状況で、少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだと、繰り返し訴えています。
政府が少子化対策に取り組み始めたのは30年以上前です。1989年の出生率が当時の過去最低となったことが判明した際には、1.57ショックと騒がれました。その後、様々な計画が出されましたが、歯止めはかかりませんでした。国立社会保障・人口問題研究所が4月に公表した将来推計人口によれば、65歳以上の割合を示す高齢化率は、2020年の28.6%から2070年には38.7%に上昇します。2059年には、日本人の出生数が50万人を下回ります。65歳以上の高齢者1人を支える20~64歳の現役世代は、2020年の1.93人に対し、2070年には1.26人になります。
少子化対策の大前提として、国が結婚や出産を強いることはあってはなりません。戦略方針にも、結婚、妊娠・出産、子育ては、個人の自由な意思決定に基づくものと明記されています。その上で、それぞれの個人や家庭の実情に応じてきめ細かな対策が求められるます。経済的な理由から結婚や出産を控える人たちを第1子にたどり着けない層とし、支援が必要です。経済的支援のみならず、長時間労働の見直しなど、働きながら子育てしやすい環境づくりがカギとなります。労働慣行や社会の意識の見直しも後押しすることで、最後の機会を失わないことが政府に求められています。
子どもが減り高齢者が増えれば、経済や社会全体に影響を及ぼします。現役世代が支える年金や医療、介護といった社会保障の根本が揺らぎかねません。社会保障費は高齢者向けの支出が大半で、痛みを伴う見直しが続いています。75歳以上の後期高齢者の窓口負担の引き上げや、介護保険の給付抑制などはこれまでも実施されてきました。異次元の対策を掲げるなら、財源確保にも理解を得る責任があります。財源論をめぐっては、経済界などからは消費増税で対応すべきだとの意見も出ています。痛みを伴わない改革はありません。

(2023年8月7日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。