旧優生保護法による不妊手術を憶う

障害を理由に不妊手術を強いた旧優生保護法の違憲判断を受け、総理は国家賠償請求訴訟の原告らと首相官邸で面会し、謝罪しました。政府・与党は、被害者への幅広い補償を早期に実現するため、議員立法による法整備を急ぐとしています。特定の疾病や障害を有することなどを理由に、不妊手術という重大な被害を受けるに至ったことは痛恨の極みであり、国や政府の責任は極めて重大です。
旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生防止を目的に1948年に制定されました。1996年に障害者差別に当たる条文を削除して母体保護法に改正するまで実に48年間続きました。本人の同意がなくても、知的障害や精神障害、遺伝性疾患などを理由に不妊手術といった施術を認めていました。最も多く手術がなされたのは1950年代でした。
国会が2023年に公表した調査報告書によれば、母体保護法に改正した1996年までに同意のあった例も含め、およそ2万5,000人が不妊手術を受けています。同意のある手術が8,518件、遺伝性疾患を理由とした強制手術は1万4,566件、遺伝性でない疾患を持つ人への強制手術が1,909件でした。
2018年以降、国家賠償請求訴訟が相次ぎ、2019年に一時金320万円を被害者に支給する救済法が議員立法で成立しました。法律の前文に、心身に多大な苦痛を受けたとし、真摯に反省し、心から深くおわびすると盛り込まれています。こども家庭庁によれば、実際に支給が認められたのは5月末時点で1,110件にとどまっています。優生手術の実施が認められる訴訟については、早急に和解による解決を目指すことが必要です。原告以外の被害者についても、訴訟を起こさなくても救済できるような制度をつくることが望まれます。

(2024年7月18日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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