東京出生率0.99に憶う

1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標である2023年の合計特殊出生率で東京都が0.99となり、全国の都道府県で最下位になりました。若い女性が流入する都市部では、出生率は低くなる傾向があります。東京の出生率が低くなる要因は、地方の未婚女性が就職する段階で大量に東京に転入してくることに尽きます。分子に当たる生まれた子どもの数に比べ、分母の流入する女性の方が圧倒的に大きくなってしまいます。配偶者がいる女性に限った出生率で見ると東京都区部は全国平均よりも高くなっています。

合計特殊出生率だけに注目すると人口減の本質を見誤り、解決策が見つからない懸念が出てきます。最下位の出生率に対して、出生数は前年比5.2%減と、全国平均の5.6%減よりはましです。一方、出生率の高さが、出生数の多さを示すわけではありません。2018~2022年の市区町村別の出生率で全国トップの鹿児島県徳之島町は2.25でしたが、国勢調査では2020年までの5年間で同町の人口は減少しています。人口の流出入が比較的小さい日本全体では、出生率を参考にできるものの、就学・就業時に人の流出入が激しい自治体別の出生率は、少子化の実情を表すとはいえません。
東京の課題を如実に示しているのが未婚率の高さです。25~49歳では45%を超え、全国平均よりもひときわ高くなっています。行政が出会いの場を提供するのも一つですが、カップルとして経済面で安定した家庭を持てるようにするため、女性の所得水準を上げるような企業側の体制整備も必要です。国際的にも際立つ男女間の賃金格差を是正することで、企業内に経済的に対等な男女が増え、今の若者が理想とするパートナーが見つかりやすくなります。

東京の方がスキルアップの機会が多いから、若い女性が集まっているのは自然な流れです。東京の企業が手本となり、女性活躍を推進する企業が各地に増えれば、若い女性も地方に定着するようになります。東京の周辺自治体に対して、子育て世帯の家計支援のみを重視し過ぎると、財力のある東京都との競争で疲弊するだけです。

(2024年7月9日 東京新聞)
(吉村 やすのり)

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