正社員の壁

非正規社員から正社員への転換が進みません。正社員になりたい人のうち、実現できたのは7%前後にとどまっています。帝国データバンクの調査によれば、正社員不足と答えた企業は、52%に達して過去2番目に多くなっています。人手不足感は高まっているのに、人材のミスマッチで非正規からの採用は伸び悩んでいます。日本は、主要国に比べて正規と非正規の給与の差が大きく、日本全体の賃金が低い要因になっています。

人手不足の解消に向けて、正社員を求める企業は多いのに非正規は選ばれにくい状況にあります。総務省によれば、非正規は、2022年に2,101万人もいます。前年より26万人増えています。正社員は1万人の増加にとどまり、雇用者全体に占める非正規の割合は36.9%まで上昇しています。シニア雇用の増加もあります。

日本は、正規と非正規の給与格差が大きくなっています。厚生労働省などの調査によれば、2010年代の日本の非正規の賃金は、正社員中心の無期雇用者の65%の水準でした。英国の85%やドイツの74%よりも低く、平均賃金がG7で最も少なくなっています。職務内容が同じなら、雇用形態にかかわらず待遇も同じにする、同一労働・同一賃金をまず徹底する必要があります。

国は正規への転換を支援してきました。2013年度から社内の非正規を正社員にする企業へ助成を始め、2023年度は中小に1人57万円、大手で約42万円を出しています。2022年度までに計約78万人が支給の対象になっています。同じ会社で契約の更新を重ねて、通算5年を超えたら無期雇用に転換するルールも設けています。正社員への転換を増やさないと、賃上げが続いても経済格差が埋まらず、社会の階層化が進みかねません。補助金だけでなく、非正規の技能や知識を高める官民一体となった職業教育の仕組みづくりが必須です。

(2024年1月21日 日経新聞)
(吉村 やすのり)

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