消齢化社会の進行

生活者の意識や好み、価値観などについて、年齢による違いが少なくなる現象を消齢化と言います。博報堂生活総合研究所は、20~30年間の社会の変化を指摘しています。生活意識などを調べた990項目のうち、2002年から32年にかけて世代間の差が小さくなる項目は147で、差が大きくなる17項目を上回っています。医療技術の進歩などで長寿化し、元気な高齢者が増えることもあり、消齢化は不可逆的な流れです。
かつては年齢を重ねるごとに、世代横並びで就職や結婚、出産といったライフステージは変化していました。企業のマーケティングも、女子大生向け、主婦向けといった年齢、属性で分ける戦略が一般的でした。消年齢化の背景のひとつに、ライフステージと年齢がリンクしなくなっていることがあります。1975年に25歳で第1子を出産する女性は16%でしたが、2020年はピークの29歳でも1割に満たない状況です。40代で初めて結婚する人もいれば、出産する人もいて、孫に囲まれる人もいます。
人口が1億人を切る2050年代は、デジタルネーティブ世代が社会の中心となります。2040年に65歳以上になる団塊ジュニアもデジタルに慣れているため、世代間ギャップはさらに小さくなります。老若男女が同じ趣味を楽しむのが日常の風景となります。同じ趣味の仲間とつながる界隈消費が、様々な分野で生まれています。応援するアイドルやアニメキャラクターにお金も時間も費やす推し活などでは、新型コロナウイルス下の巣ごもり生活もあり、SNSなどで年齢問わずに交流する人が目立っています。
価値観が多様化する中、企業も動き出しています。ローソンは、約5年前に買い物客の性別や年齢を記録するレジのボタンを無くしました。店員の負担軽減が主な理由ですが、年齢や性別だけでは消費者像がぼやけてしまいます。消齢化は、マーケティングにも新たな可能性をもたらします。人口減に伴い縮む国内市場は、年齢の壁を超えて生きる消費者一人ひとりの心をつかむことで広げられます。

(2023年12月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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