無医地区の増加

自宅の近くに病院や診療所が一カ所もない、こんな場所を無医地区や準無医地区と呼びます。無医は、公共交通などで1時間以内に行ける病院や診療所がない地域です。人口が増えてきた時代は、医師が開業して無医地区を解消してきました。厚生労働省によれば、無医と準無医を合わせた無医地区等は、1994年の1,307カ所から、2014年には1,057カ所まで減りました。これが今、逆回転しています。人口が急激に減る地域では、患者も減り、診療所を維持できません。2019年には1,084カ所と、5年ごとの調査で初めて無医地区等が増加に転じ、2022年概況でも1,106カ所に増えています。
こうした無医地区は、全国に1,741ある市区町村の2割に達しています。大分県は既に7割超市町村に存在します。人口減に伴い増えるという前提で試算すると、2054年には2,000カ所を超え、市区町村の4割に無医の地域ができてしまいます。
オンラインによる遠隔診療は、僻地医療にとって希望の1つです。AIを使う診療が広がれば、僻地でも高度な医療を受けられるようになります。しかし、未来に訪れるのは、今よりも一段と広がる都市と地方の医療格差です。
医学部の新設もあり、医師は増えています。厚生労働省によれば、医師は2030年前後に約36万人となった時点で需給が均衡し、その後は過剰になります。余る医師が地方で働くとは限りません。今でも日本は医師の偏在が強く、過剰が他に流れるトリクルダウンは成立していません。東京都ですら、医師が集まる港区などの区中央部と青梅市など西多摩では6倍の差があります。
ドイツやフランスは公的医療保険制度のもとで、診療科別、地域別に定員を設ける仕組みがあります。医師の自由開業が原則の日本も、地方の病院を維持するための新たな手立てを求められています。

(2023年8月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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