男女の賃金格差

2023年のノーベル経済学賞は、クラウディア・ゴールディン米ハーバード大教授の受賞が決まりました。授賞理由は、女性の就労や賃金の変遷について経済学的理解を深めたことです。米国における男女賃金格差や女性の就業率の長期的変遷について、事実解明を積み上げた業績が評価されました。
20世紀最大の発明ともされる低用量ピルの登場が、女性のキャリアを後押ししたかの検証に取り組みました。若年未婚女性の低用量ピル使用が許可された年が、州により異なることにも着目しています。早期にピルにアクセスのあった女性のキャリアを比較し、ピルへのアクセスが10代の妊娠を減らし、一方で高度な教育投資を増やしたことを実証的に示しています。
労働市場で、女性の仕事はどれだけの金銭的価値を得るかという視点も重要です。男女賃金格差が代表的な指標です。米国では、1970年代に40%近かった男女賃金格差は約18%まで縮小しています。かつては高賃金の職業に男性、低賃金の職業に女性が就きやすい社会でしたが、米国でも職業分離は縮小の道を辿りました。教育水準の高まりもあり、男性が大半を占めていた高賃金の職業に女性も進出するようになり、男女賃金格差も縮まりました。
日本では、男女賃金格差収斂の足取りはやや緩慢です。2022年7月に、男女賃金格差の開示が従業員数301人以上の企業を対象に義務化されました。賃金格差は一層身近な指標になりつつあります。この指標は他社との競争ではなく、真に重要なのは、男女差はどこから生じるのか、まずは事実を掘り下げることです。

(2023年10月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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