緊急避妊薬の市販化に向けた流れ

緊急避妊薬はアフターピルとも呼ばれ、欧米では1970年代から使われてきています。WHOは、予期せぬ妊娠の危険にさらされている全ての女性は、緊急避妊薬を利用する権利を有しているとして、必須医薬品に指定しています。日本では、2011年にようやくノルレボが医療用医薬品として承認されました。
ノルレボは、女性ホルモンの一種である黄体ホルモンが主な主成分で、排卵を抑えたり、遅らせたりします。性交後72時間以内に服用すれば、9割程度の確率で妊娠を防ぐことができます。速やかに服用するほど有効性が高いとされ、海外では薬局ですぐに入手できます。しかし、日本ではまだ市販されていません。医師の診察と処方箋が必要で、夜間や休日に入手しづらい地域もあります。保険適用外のため、診察料や薬剤費を含めて1万~2万円前後の費用がかかります。
2020年の第5次男女共同参画基本計画が閣議決定されて以来、市販化を求める動きが活発化しています。しかし、試験的運用に参加する薬局は次の条件を満たす必要があります。①オンライン診療のために緊急避妊薬の調整研修を修了した薬剤師がいる、②夜間・土日祝日の対応が可能、③プライバシーが確保できる個室などがある、④近隣の産婦人科医、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターと連携可能の4点です。こうした薬局は、大都市に偏在する可能性が高く、地方で必要な時に速やかに緊急避妊薬を入手できるかどうかは疑問が残ります。
緊急避妊薬は、多くの国で医師の処方箋なしで購入できます。日本は費用面でも海外と比べて大きな開きがあります。緊急避妊薬について医師の診察は不要ですが、薬剤師の関与が重要と考える国は多くなっています。薬局で市販する90カ国以上のうち、76カ国は薬剤師による対面での販売を必須にしています。
緊急避妊薬を必要とする女性の中には、周囲の人の偏見への不安や性行為について話すことに抵抗感を持つ人も多く、未成年の場合は保護者に知られることを恐れるケースもあります。重要なのは、女性が自分の意志で妊娠するかしないかをコントロールできる環境を整備していくことです。そのためには、必要な人の手に届けるには、いつでも手ごろな価格で利用できるようにする配慮が欠かせません。

 

(2023年9月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。