臓器の異種移植

米ハーバード大学などは、ブタの腎臓をサルに移植し最長で2年間生存させることに成功しました。今後、ヒトに移植する臨床試験で効果が確かめられれば、深刻なドナー不足の緩和につながる可能性があります。患者の負担が大きい透析に代わる新たな治療法になり得ます。
一般的な血液透析では、週3回ほど通院し1回3~5時間かけて透析します。日常生活で取れる水分量などが制限される上、透析中は血中の水分量が大きく変化し体に負担がかかります。そのため、透析患者のQOL向上が課題となっています。また、透析にかかる国内の医療費は年約1.6兆円と、総医療費の4%程度を占め、医療経済的にも大きな問題になっています。臓器の機能を代替する埋め込み型の人工臓器の開発も進んでいますが、腎臓のような複雑な臓器では実用化していません。
透析や腎臓移植に代わる可能性があるのが、動物の臓器をヒトに移植する異種移植です。ドナー不足に対応でき、患者は移植により透析を避けられると期待されます。ブタは人と臓器の大きさが似ており、ドナーに最適な動物と考えられています。
今回のハーバード大学の報告によれば、ブタの腎臓をサルの免疫が異物として攻撃しないように、生物の遺伝情報を変えられるゲノム編集技術でブタの遺伝子を改変しました。このブタの細胞核を取り出してクローンブタをつくり、一定の大きさに育った段階でサルに移植しました。クローンを活用すれば、狙い通りにゲノム編集されたブタのみを何度もつくれます。
異種移植の歴史は古く、20世紀初頭に血管をつなぐ技術が開発されて以降、様々な動物の臓器移植が試みられてきました。しかし、体の免疫機能は動物の臓器を異物とみなしてしまいます。長らく有望な治療法にはなりませんでしたが、ゲノム編集技術の登場で状況が変わりました。
ニューヨーク大学は、脳死した50代の人に拒絶反応が起きないよう遺伝子改変したブタの腎臓を7月に移植したと発表しています。移植した腎臓は2カ月間良好に機能しました。脳死した人への移植を通じ、移植後のデータを収集し、治験の安全性を検証しています。

(2023年10月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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