認知症の治療と共生-Ⅲ

新薬の登場
米国研究製薬工業協会によると、1998年から2021年の間に198の候補薬が臨床試験に進みましたが、有効性を示せず失敗に終わりました。この間承認されたのは4例のみで、いずれも症状を一時的に緩和する対症療法薬です。
アミロイドβの蓄積は、物忘れなど症状が表れる10~20年前から始まることが着目されるようになりました。2010年代に始まったレカネマブの臨床試験では、対象を早期段階の患者に限定し、1年半の投与で症状悪化のスピードを27%遅らせる効果を示しました。2023年7月に米国、9月に日本で承認されました。
認知症が治る薬ではないが、これまで実現できなかった進行抑制に一定程度の効果が得られたことは大きな一歩です。アルツハイマー病の患者の脳では、アミロイドβの蓄積に続き、タウという別のたんぱく質が神経細胞内に蓄積し、その後、認知機能が低下することが分かっています。そこで、エーザイなどはタウを除去する薬の開発に取り組んでいます。
治療の選択肢が増えることは素晴らしいことですが、新薬は低下した認知機能を改善させるものではありません。新薬を使うことが勝ち組ではありません。治すわけではない治療に月2回通う必要もあります。勝ち組とは、治療を受けられたか否かではなく、認知症と共に自分らしい時間を過ごせたかどうかです。新薬が注目されている今こそ、アルツハイマー病の正しい理解を広めることで古い認知症観を変え、差別や偏見の解消につなげる必要があります。

(2023年12月17日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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