起立性調節障害への対応

思春期に多い起立性調節障害(OD)は、中学生の約1割が発症し、不登校の原因にもなっています。朝起きられない、立ちくらみがするなど11種類の多彩な症状を訴えます。症状は朝に強く現れ、午後に回復していきます。このため、怠けていると勘違いされやすいのですが、ODはからだの病気であり、原因は血圧をコントロールする自律神経の不調です。
立ち上がると血液は、上半身から下半身へと移ります。通常は自律神経によって血液が上半身に戻りますが、ODの場合はこうした自律神経の働きが鈍くなります。その結果、上半身の貧血状態が続いてしまい、様々な症状を引き起こします。患者は自律が乱れやすい10~16歳の思春期に多く表れます。思春期は自我を確立する過程や勉強、人間関係などを巡ってストレスを抱えがちで、こころへの負担も自律神経の不調につながっています。
血圧は気圧や気温の影響を受けるため、梅雨から夏にかけて発症しやすく、元々の体質、水分・塩分不足も影響します。軽症を含めて小学生の約5%、中学生の約10%がODで、不登校の3~4割が該当するとされています。小児科領域では稀な病気ではありません。新型コロナウイルス禍で患者が増えたとする研究もあり、生活リズムの乱れや運動不足、孤独感や不安感などが背景にあります。インターネットやゲームなどへの過度な依存によっても同じ状況に陥りやすく、極めて現代的な病気だと言えます。
親と子どもが、ODはからだの病気で、心理状態も影響するという点を理解することから始まります。生活習慣の改善も進める必要があります。早寝早起きなど規則正しい生活、適度な運動、水分・塩分摂取などを心がけ、立ち上がる時はゆっくりと時間をかけます。ODの子どもが孤立し、不安を抱えないように、周囲の理解を得ることも大切です。学校には症状や必要な配慮を記載した診断書を提出すべきです。
中等症になると血圧を上げるための薬を使うこともあります。漢方薬も有効です。重症の患者は心理療法を試みることもあり、改善しなければ、心身医療の専門医にかかることを検討すべきです。回復には一般的に軽症で数カ月、重症で数年かかります。不登校のため勉強の遅れが親として気になりますが、焦りは禁物で、手の届きそうな目標を立てて、一つ一つ目標を達成するごとに、親は子どもを褒めることが大切です。
登校についても、午後から出席、別室で学習など、無理のない方法を選ぶことが必要になります。不登校などを対象とした自治体の教育支援センターや、民間のフリースクール、習い事に通うのも効果的で、できる限り同世代との関わりをもつことが大切です。ODの子どもを育てる親の負担は軽くありません。しかし、子どもは親の疲弊を自分のせいだなどと感じ、ストレスの原因にもなります。できるだけ明るく過ごすことが大切です。
ODの子どもは性格が優しく、相手に過度に合わせてしまう傾向があり、過剰な干渉は意欲をそぐことにつながってしまいます。子どもが選んだことを評価し、支えることで、自己肯定感を高めることが大切です。指示より支持をするという気持ちで、子どもに寄り添うべきです。

 

(2024年6月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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