働く人の人権への配慮

近年、人権デューデリジェンスという言葉が使われるようになってきています。元々、デューデリジェンスとは、投資を行うにあたって投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査することです。つまり、人権デューデリジェンスは、事業活動に伴う人権侵害が起きていないかを企業が調べて、予防や軽減策を講じることを言います。
人権侵害とは、児童労働や強制労働、不合理な低賃金、ハラスメント、性別や人種などによる差別といった様々なものが想定されます。人権デューデリジェンスは、直接の取引先だけでなく、原料や部品を調達する2次以降の取引先も含めたサプライチェーン全体が対象となります。
企業のグローバル化で、サプライチェーンは世界に張り巡らされているから、自社の事業が海外で人権侵害を引き起こしていないか気をつけないと行けなくなっています。強制労働が指摘される中国・新疆ウイグル自治区の人権問題では、フランスのファッションブランドのラコステや、スウェーデンのH&Mなどが、相次いで現地企業との取引停止を発表しています。人権リスクは企業活動に大きな影響を及ぼすことになります。
世界的に取り組みが進むきっかけになったのは、2011年に国連人権理事会が、ビジネスと人権に関する指導原則を承認したことによります。人権を保護する国家の義務を再確認し、企業には活動において人権を尊重する責任があることを明記しています。人権尊重の具体的方法として人権デューデリジェンス実施も規定されています。
欧米に比較し、わが国の取り組みは遅れています。サプライチェーン全体の人権侵害を把握するには、かなりの労力とコストがかかります。欧米のように法制化が進んでいないわが国においても、まず企業や経営者の人権感覚を高めていくことが大切です。私たち消費者の意識改革も必要です。人件費を抑えて生産したファストファッションなど、商品が安く手に入るのはありがたいのですが、便利さの裏に何があるのかも考えないといけません。できるだけ、人権に配慮している企業の製品を選ぶようにすることが大切です。

(2021年11月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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