ミニ肝臓を用いた新薬開発

製薬会社が新薬を開発する際には、肝臓への毒性を調べる必要があります。動物実験やシート状の細胞を使って調べるのが一般的ですが、マウスなどを使う動物実験では、人間の肝臓への効果を十分に確認するのは難しいとされています。人と同じ肝臓機能を持つキメラマウスを使う方法もありますが、実験設備が必要で1匹あたりの値段も高額になります。シート状の細胞は、品質を保てる期間が数日と短く、長期間の毒性の評価がしづらい状況にあります。
バイオベンチャーであるサイフューズは、人の肝臓から肝細胞を採取し、代謝の機能を持つ細胞を3D状に培養しました。大きさは1㎜ほどで、細胞上に機能を調べたい成分を振りかけて反応を調べるといった使い方ができます。開発したミニ肝臓は、シートよりも複雑な三次元の構造にすることで、数カ月にわたって毒性を評価することができます。販売価格も60個の細胞を1セットにして数十万円程度になる見込みです。受注から3週間で納入でき、取り扱いも容易なため、製薬業界での認知度が高まれば、需要拡大が期待できます。
ミニ肝臓に続き、小腸の働きを再現した製品や肌細胞の機能を再現した製品の開発も検討されています。大阪大学発のスタートアップであるクオリプスは、iPS細胞を使った心筋細胞シートの開発を手掛けています。重症心不全の治療に使うシートで、有効性と安全性を確認しています。
バイオベンチャーは、取り組むテーマの革新性で注目を集めています。しかし、臨床試験などを通じて効果や安全性を確かめる作業に長い年月がかかり、着手から収益化までは10年以上かかることも珍しくありません。開発が順調であっても、説明が不十分で投資家から理解を得られず、資金集めに苦慮するケースもあります。M&Aや副業の充実は、収益面の経営安定につながるだけでなく、効果的な対外的アピールにもなるため、重要性を増すと思われます。

(2023年9月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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