ゴールディン氏にノーベル経済学賞

今年のノーベル経済学賞は、米ハーバード大のクラウディア・ゴールディン教授に贈られました。米国の200年以上にわたる労働市場のデータを分析し、男女の収入や雇用の格差が生じる原因についての包括的な研究が評価されています。
米国では、女性の就業率が上がり始めた20世紀初めでも、既婚女性の就業率が低く、既婚女性には、教師などの一部の仕事につくことを制限する規制がありました。また、女性は結婚前の数年間だけ働くのが一般的で、家庭観も女性の教育進路に影響を与えたとしています。男女の就業率や収入の差の要因を歴史的な背景を踏まえ、多角的に分析しています。
男女の賃金格差も長期にわたって調査しています。子どもを産んだ女性の昇進が遅れたり、短時間労働に押し出されたりしてしまう現象は、チャイルドペナルティーとして知られています。一般的には、育児負担が女性に偏りがちなことの現象の要因と考えられています。ゴールディン氏は、長時間労働や突発的な業務など仕事の質にも問題があると捉えています。男女を問わず、勤務時間の調整がしやすいフレキシビリティーこそ、賃金格差を埋める最後のカギだと説いています。
女性の仕事がパートなどに偏りがちなことに関しては、期待の役割を重視しています。母親に育児が偏る社会で育った女性は、将来の教育や職業選択について、子どもの頃のイメージや期待に囚われがちです。男性の育児参加などで、期待のバイアスを変える意義は大きいと説いています。
研究は、著書「なぜ男女の賃金に格差があるのか」にまとめられています。過去1世紀、米国で大学教育を受けた女性たちを5つの世代に分け、家庭とのキャリアの問題にどう向き合い、世代間でバトンをつないできたかを検証しています。両立の仕組みが整い、意識改革も進んだ今もなお残る男女の収入格差の要因がどこにあるか、具体例を交えて原因に迫っています。日本でも男女の賃金格差が克服すべき大きなテーマとして注目されているいま、この分野にノーベル賞が光を当てたことは大きな意義があると思われます。

(2023年10月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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