企業における転勤の考え方

企業は、業務上必要ならば社員を配置転換したり転勤を命令する権限があります。就業規則に明記する企業も多く、転勤を命じられた場合、簡単には拒否できません。しかし、4月に労働条件明示のルールが変わりました。従来は雇用・募集の際、採用直後の勤務先を示せば良かったのですが、今後は勤務する可能性がある場所を事前に伝えなければなりません。国は、既存の社員についても同様の対応を推奨しています。
転居が伴う転勤は生活環境の変化を迫ることになります。夫が外で働き、妻が家庭を守るといった性別役割分担が根強い時代ならば、急な転勤辞令でも家族一緒に引っ越しもできました。しかし、共働きも増えた現代では、それも難しくなってきています。ルール変更は、個人が人生設計を立てやすくする狙いがあります。
若い世代の意識変化が顕著です。結婚しているか否かに関わらず、住み慣れた土地を離れたくないと考える人も少なくありません。マイナビの大学生就職意識調査によれば、行きたくない会社として、2025年卒業予定の30.3%が転勤が多いを挙げています。2015年卒の19.9%から大幅増です。
人手不足が顕著な今、転勤制度は採用活動で不利になり、社員の転職も誘発しています。企業も見直しを急いでいます。東京海上日動火災保険は、2026年度を目途に本人の同意のない転勤を廃止する方針です。転勤の有無に関わらず、賃金に差は設けず、社員に魅力的な就労環境を整えています。
一方、転勤は人員の適正配置や組織活性化に不可欠なマネジメントでもあります。転勤を受け入れる社員に好待遇で報いる企業の動きもあります。三菱UFJ信託銀行は、転任手当50万円を新設、単身赴任者向けの手当てなども拡充しています。同じ総合職でも転勤の有無によって基本給に差を設ける会社もあります。

(2024年5月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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