AI医療機器の保険適用への道

医療に使えるAIはプログラム医療機器と呼ばれ、2010年代後半からサイバネットシステムの大腸がんになる恐れがある腫瘍の判別など、20以上が承認されています。がんが早期発見できるため、より多くの患者の命を救う可能性を秘めていますが、病院になかなか採用されていません。
採用が広がらないのは、利用しても診療報酬が変わらず、短期的には導入コストが経営悪化要因となるためです。薬事承認を受けたAI医療機器の多くは、厚生労働省に申請すれば、保険診療で使えるようになります。しかし、それだけでは安い注射針などと同じ位置づけで、報酬が保険で加算されるには、中央社会保険医療協議会(中医協)の審査を受けなければなりません。現在、保険で診療報酬が加算されるのは、インフルエンザの検査システムなど一部にとどまっています。がん診断支援AIなどの一部は、医師を上回る研究成果を示していますが、公的保険では評価されていません。
中医協の委員構成を見ると、医療機器メーカーなどの意見が反映されにくい構図があります。診療側のうちの多くは日本医師会の所属で、医療機器メーカーや関連団体関係者は一人もいません。医師の役割の中核を担う診断という業務をAIに完全に代替させることへの危機感は強いものがあります。
日本では、AIを含めた医療機器に保険の価格を設定するハードルは高くなっています。医薬品は、1961年の国民皆保険の制度化で、予防用ワクチンなどを除き、薬事承認の手続きでほぼ全ての医薬品で保険の薬価がつくようになりました。これに対し、医療機器は活用の対価が医師の技術料に含まれてしまい、診療報酬が増えないことがあります。

日本医療研究開発機構によれば、AIなど世界のプログラム医療機器の市場規模は、2027年に865億ドル(約12兆円)と2019年の4.7倍に急成長すると見込まれています。保険価格がつけば医療費は増えますが、がんの早期発見によって簡単な治療で済めば全体の医療費抑制につながります。胃や大腸の検査や治療に使われる内視鏡は、オリンパスや富士フイルムなど日本企業の存在感が大きく、強みを発揮しています。がんの病変が映る画像データなどを医療機関から入手しやすく、高性能なAIを作りやすい環境にあります。

(2023年9月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。