WHOと感染症対策

 感染症は、人類にたびたび危機をもたらし、今も大きな脅威であり続けています。WHOは、今年5月にエボラ出血熱の感染がアフリカ中部コンゴ民主共和国などで広がっているとして、国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。緊急事態は、WHOの国際保健規則で定められた感染症に対する警報です。

 2020年1月に新型コロナにも発出されましたが、宣言までに時間がかかったため、対応の遅れを批判する声が相次ぎました。そのためWHOは、コロナ禍を教訓に規則を改正し、緊急事態の中でも広範囲に流行するリスクが高い、社会経済的に重大な混乱を引き起こすなどの条件を満たすと、パンデミック緊急事態を発出することを決めました。

 WHOの最大の功績とされるのが、天然痘の撲滅です。冷戦中の米ソが協調し、患者を見つけ出し、周辺にワクチンを打つ作戦を流行国で実施しました。1980年5月に根絶を宣言しました。このほか高血圧や肥満など生活習慣病対策も呼びかけるほか、2005年には受動喫煙の防止やたばこの広告禁止を定めたたばこの規制に関する枠組み条約を発効しています。

 WHOはいま危機に陥っています。自国第一主義を掲げるトランプ米大統領がWHOからの脱退を宣言し、予算全体の約15%を占めていた米国からの資金はほぼゼロとなりました。新型コロナ対応で明らかになったように、WHOは国際政治や国家間の対立の影響を受けやすく、加盟国への強制力も持たないため、強い指導力を発揮するにも限界があります。資金面で苦しい状況を考えると、病気の撲滅や母子保健の普及に積極的に取り組むのは難しく、今後は指針やルールの策定などの任務に限られてきます。

(2026年7月14日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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