これからの社会と産婦人科医療―Ⅱ

人生100年時代
人生100年時代とは、英国の学者であるリンダ・グラットン氏らが書いた「ライフ・シフト」という本がきっかけである。これまでは人生80年時代といわれてきたが、人生100年時代のことを考えようという機運が高まっており、長い高齢期を生きていく上でどのように仕事を確保し、生きがいのある生活を実現していくかが問われる時代になってきている。人生80年時代の政府の役割は、個人に様々なサービスを提供することだったかもしれないが、人生100年時代には、政府の役割は一人ひとりが自立的にいつまでも生き生きと活動できるような基盤を構築することにある。
わが国の平均寿命は年々伸びており、世界でも有数の長寿国になっている。平均寿命は、治療技術の向上や健康診断の普及によって伸びてきたものの、それによって介護などに頼るケースも増えてきており、医療費も膨らんでくる。しかし、健康上の理由で日常生活が制限されることのない健康寿命は、平均寿命と10年前後の乖離があり、特に女性においては、男性と比べて健康寿命と平均寿命との差が大きく、骨粗鬆症などにより介護サービス受給者の割合も多くなっている。人生100年時代に備えるには、平均健康寿命を延ばすことが何よりも大切になる。
長くなった高齢期に充実した人生を送るには所得や生きがいがなければならず、そのためには職業寿命をいかに伸ばすかを考えなくてはならない。団塊の世代が後期高齢者となる2025年までには、少なくとも70歳までは働くことを前提に変える必要がある。そのうえで人生100年時代を見据えて、働く意思と仕事能力のある限り、その能力を発揮し続けられる生涯現役社会を目指さなければならない。
人生100年時代の今、いかにして健康を維持できるかが老後生活の質を高める上で大切となり、人生100年を享受し得る豊かな時代には、個人の資産寿命を延ばすことも重要になってくる。ただ生きるだけでなく、豊かな充実した人生を、国や公的機関に頼ることなく、自立的に実現できるようにしなければならず、そのためにも職業寿命や資産寿命を延ばすことが必要となる。

(吉村 やすのり)

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