アスベスト被害の賠償責任

アスベストは、天然の鉱物繊維で、安価で燃えにくいため、戦後の復興期や高度経済成長期に建材として重宝され、国も使用を推進しました。しかし、吸い込むと、やがて肺がんや中皮腫を発症する恐れがあり、1960年代には学会で危険性が指摘されていました。国は2006年に製造や使用を全面的に禁じましたが、建材として使われた建物が今も多く残っています。
建設現場でのアスベスト被害をめぐり、国とメーカーの賠償責任を認める最高裁判決が示されました。国は、2006年に石綿を含む建材の製造や使用を全面的に禁じており、石綿が新たに市場に出回ることはなくなっています。しかし、建設現場の作業員だけではなく周辺住民も含めて、被害者は今後も増える恐れがあります。
国交省の試算によれば、対象の建物が解体されるピークは2030年ごろで、完全に無くなるのは2055年ごろです。廃棄された石綿の量は、ここ10年ほど増加傾向にあります。被害者も増え続けています。厚生労働省によれば、石綿の代表的疾患である中皮腫の国内死亡数は、2006年に年間1千人を超え、その後も増加しています。2019年は1,466人に達しています。
最高裁の初判決を受け、原告団と国は、全国で係争中の訴訟で用いる統一和解基準に事実上合意しました。国は基準に沿って和解を進める考えで、元作業員や遺族ら計約1,200人と国との訴訟が決着に向けて動き出します。また訴訟を起こしていない被害者に補償するため、与党は基金を創設する考えです。

 

(2021年5月18日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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