イップス病

 パターなどのクラブが思うように打てなくなる症状は、イップスと呼ばれています。子犬の甲高い声を英語で表す「yips」からつくられた造語です。繊細な動きが必要なパッティングでパターが動かせなくなったり、意図とは全く違う方向に腕が動いたりします。ゴルフのパターのような細かい動作を素早くする運動する時に起こりやすいとされています。ゴルフだけではなく、野球の投手が球を投げたり、バレーボールやテニスでサーブが打てなくなったりと、他のスポーツでも同じような症状に陥ることがあります。
 筋肉などに問題がないにも関わらず、体が思うように動かないイップスは、医学的にはジストニアと言います。遺伝性や脳卒中などによって起きることが知られていますが、同じ動きを繰り返すような運動や仕事をする人にみられる場合に職業性ジストニアと呼びます。原因ははっきりしていません。治療としては、筋肉の緊張を緩和する薬を処方したり、麻酔を注射したりするほか、脳内に軽い刺激を加えたりすることもあります。スポーツ選手や音楽家などは、過度な緊張やストレスといった精神的な問題が原因とされ、メンタルトレーナーなどの指導を受けて症状が良くなる場合もあります。しかし、症状を克服するような完全な治療法はありません。
 20年程前、私もイップスに悩まされました。ゴルフのドライバーを打つ時、かまえるのですが、クラブを振ることができなくなりました。じっとティーグラウンドでかまえて立ったままで、10秒以上打てませんでした。その時は何を考えているのかと、よく人に聞かれましたが、何も考えているわけではありません。人は「早く打て」と思っているだろうということを考えていました。3年ほど苦しみ、自然に治りましたが、今でもその後遺症で、人よりティーショットまでの時間が長いと思います。

(2016年11月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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