「わが国の少子化を考える―産婦人科医の重要性―」シリーズ―Ⅳ

少子化対策の必要条件
 高齢化問題には、多額の税金が投入され重要視されているが、少子化対策とその背景にある女性の健康問題はこれまで軽視されてきた。出生率を回復させるためには、高齢者への給付に偏っている社会保障の財源の配分を見直し、女性の健康と子どものための支援を充実させることを考えなければならない。産婦人科医は、女性の健康を全人的に支援し、女性の幸福を追求するプロフェッションであり、女性と子どもへの投資が、将来の社会保障制度の支えを増やすことに繋がることを、国民に丁寧に説明する役割を担っている。また望まない妊娠により、生まれた子どもが虐待を受けることもあり、こうした深刻化する養育困難な実態を把握し、すべての生まれてくる子どもが幸せに暮らすことができる環境を整備するのも重要な産婦人科医の務めである。女性が心健やかに子どもを産み、安心して子育てや教育ができる成熟した社会の実現なくして加速化する少子化の流れを断ち切ることはできない。
 わが国のおかれている少子化の危機的状況を考えると、企業の意識改革が必要となる。企業が時短勤務、時差勤務、育休制度の充実などの対策を講じ、男性も積極的に育児に参加できるような体制を企業が考えるべきである。加えて単に制度を作るだけではなく、出産した女性の職場復帰や男性の育児休暇取得などが、何らかのインセンティブになるような施策も必要となる。要は、産んだ女性だけが子どもを育てるのではなく、男性と社会全体が子育てを支える制度設計が求められている。社会、企業そして男性の意識改革が強く望まれる。子ども・子育て支援のための制度設計は、国の政策として少しずつ進められているが、意識の改革は困難を極める。
 諸外国の合計特殊出生率は女性の労働力率と相関する。つまり、出生率が高い国では女性が働いている割合が多いことになる。諸外国においては女性が子どもを産んでも働きやすい環境ができているが、逆にわが国では働いている女性にとって子どもを産みにくい社会や職場環境にあるといえる。育児や介護負担の支援、さらには育児と仕事の両方の責任が果たしやすい職場環境の整備など、欧米と同様の子育てしやすい環境づくりに早急に取り組むべきである。そして、“女性が子どもを作り育てたいと思える”社会の形成を目指さなければならない。

(吉村 やすのり)

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