「わが国の少子化を考える―産婦人科医の重要性―」シリーズ―Ⅵ

生殖に関する教育の重要性
 結婚を希望し、子どもを持ちたいと思う人が減少していないのに、未婚率は年々上昇している。若い男女の妊娠や出産に対する希望を叶える第一歩は、医学的にみて理想的な女性の妊娠年齢は、25歳から35歳であることを知ることより始まる。結婚や妊娠を、望まない妊娠、避妊というネガティブな切り口で捉えるものではなく、いかにしたら妊娠できるか、妊娠することの素晴らしさといったポジティブな考え方で思春期から教育することが大切となる。これまでの文部科学省による学校教育は、生殖に関する知識の啓発という観点からは十分とはいえず、若い男女が妊娠現象を考える上で有用な情報が得られる手段とは、必ずしも考えにくい。生殖年齢にある女性が、この時期に出産できるような社会や職場の環境づくりが何よりも大切となる。そのためには、高齢妊娠の困難性や危険性を思春期の頃より教育することが重要となり、その先導者たらん産婦人科医の役割は極めて枢要なものとなる。
 次世代の産出と少子化問題との関連で強調しなければならないことは、男女の生物学的な差異の論議を封じてはならないことである。これはあくまでも男女のからだの仕組みの差異を示しており、差別を意味するものではない。生命の維持や生殖に関する生物学的な仕組みは、種を超えて共通であることは冷厳な事実であり、再認識することが大切である。ヒトは動物と異なり、予防医学の進歩により平均寿命の延長がみられたが、生殖年齢の延長を期することはできない。男女の差異を十分に理解した上で、個々の自律的な選択が尊重されるべきであることには贅言を要しない。男女の差異と差別を混同し、男女平等の概念が論じられてはならない。こうした教育に担わるのが産婦人科医の責務なのである。

(吉村 やすのり)

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