ジェンダーギャップを乗り越えるために

世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数で、日本は156カ国中120位、先進国では圧倒的な最下位です。基準4項目のうち教育・健康分野では高スコアですが、経済・政治参加の低スコアが致命的となっています。健康で高い教育を受けた人的資本が生かされていないことが大きな問題となっています。新型コロナウイルス禍は、正規・非正規や男女間など、様々な格差と分断を改めて浮き彫りにしています。
四大進学率は男女とも50%を超え、労働市場参入当初は雇用形態・賃金とも男女間で大差はありませんが、結婚や出産を機に男女格差が決定的となってしまいます。多くの女性が壁を前に就業調整を行い、20~30代で急減する正規雇用の割合はその後上昇せず、復職の大半は非正規雇用となってしまいます。
女性の参加は、成長を促し財政収支を大きく改善させますが、雇用形態や賃金に変化がなければ、大半の効果は消えてしまいます。非正規雇用は、平坦で経験を積んでも所得増は期待できません。非正規社員が景気変動のショックに見舞われると、雇用の調整弁とされることは、金融危機やコロナ危機後でも明らかです。
年間出生数は過去5年で16%減少し、2020年には約84万人となりました。この減少ペースが続けば、30年後の出生数は現在の3分の1となってしまいます。婚姻率も低下を続け、生涯未婚率は男性26%、女性16%です。高度経済成長期の典型的な家族形態はもはや標準的ではなく、旧来の家族構成と家庭内分業を前提とした昭和の制度は様々な弊害をもたらしています。多様な個人の生き方やライフステージに対応できる労働市場の流動性が必要となります。出生数の激減で生産年齢人口も急減します。社会保障支出増と税・社会保険料の収入減は確実に訪れます。
出生率低下は多くの国が直面する複雑な課題であり、シンプルな処方箋はありません。しかし、結婚・出産による賃金頭打ちと生涯所得の激減は、労働市場の流動性改善により是正することができると思います。財政負担の先送りや格差拡大は、将来の暮らし向きの悪化を意味し、子どもの幸せを願う人に出産をためらわせることになります。将来世代に資する政策に向き合うことは、目下の社会経済問題の解決にも寄与すると思われます。

(2022年1月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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