デジタル薬とは

情報技術を導入した医薬品のことです。スマ―トフォンのアプリなどに搭載されたデジタル技術を利用して、まだ手つかずの心の病をデジタルで癒やす挑戦が始まっています。ニコチン依存症を治療するスマホアプリを発売されます。行動療法と呼ばれる禁煙治療のノウハウをAIとしてアプリに組み込んでいます。たばこを吸いたい気持ちの強さなどを入力すると、AIが患者の状態に合わせて助言や励ましの言葉を届けます。スマホ画面の向こうに医師がいるような感覚で、喫煙につながる行動や生活習慣を改めます。禁煙補助薬では治しにくかったニコチンへの心理的依存から脱却させるとされています。

心や脳の病気は手つかずのフロンティアとも言えます。依存症や認知症、うつ病も脳の病気と言えます。予防や治療に結びつく特効薬は見つかっていませんが、言葉や映像で脳に働きかけるデジタル薬は、こうした閉塞した状況を突破する可能性もあります。塩野義製薬は、注意欠陥多動性障害(ADHD)と呼ばれる子どもの発達障害を治療するゲームアプリの治験を、2019年度中に日本で始めます。大塚製薬は、様々な顔写真を見せて短期記憶を鍛え、うつ病を治すアプリを手掛けます。錠剤にセンサーを内蔵し、服薬をアプリで管理する精神病治療薬も米国で発売しています。

デジタル薬がアプリで患者の心と体に働きかけるのは、物質ではなく言葉や映像です。考え方や生活習慣を見直すよう脳に刺激を与えます。いわば感覚器官から取り込んだ情報が薬として作用します。これまでの薬は体に作用するものが多かったのですが、デジタル薬は心に働きかけるケースが多いのも特徴です。デジタル薬は体に異物を取り込まないため、副作用が起きにくいメリットもあります。子供や妊婦向けの治療にも取り組みやすいと思われます。また、安価に開発できることも魅力です。

(2019年10月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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