ポストコロナの医療体制の再編

新型コロナウイルス禍で露呈した医療の課題を解決するには、保険医療機関のガバナンスを立て直す改革が必要になります。診療所は全国に10万施設、内科系に限っても7万施設とコンビニエンスストアの店舗数の約5.6万をはるかに上回っています。しかし、実際に発熱外来として登録されたのは、3.5万施設に過ぎません。そのうち1.2万施設は、都道府県が公表する発熱外来リストへの掲載を拒んでおり、公表施設に患者が集中してしまいます。
開業医を中心とする医療体制にあるわが国においては、経営の自由が民間医療機関の既得権になっています。現在の医療体制で行政ができるのは、診療報酬や補助金などお金で医療機関を誘導するくらいしかありません。自由という名の放任が現体制の本質です。国民の医療アクセスが閉ざされる緊急事態なのに、命令や指示ではなく要請しかできません。
保険診療を担う病院や診療所は、税と保険料を財源とする診療報酬で経営が支えられています。民間であっても高い公益性が求められるはずです。感染症対応など公共政策上の重要課題を遂行するために、厚生労働省や知事の指揮下に入るように法律で位置付けることも必要になります。国は、医療機関の経営の自由にメスを入れ、医療のガバナンスを確立する必要があります。
今回のコロナ禍で、わが国の医療体制がいかに機動力と統制を欠いていることが明らかになりました。国民の命と健康を守るために、公的な医療インフラの一角を担う存在として、保険医療機関の役割や責任を問い直す時期にきています。

(2022年2月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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