妊婦に対する新型コロナウイルスワクチン接種

妊婦へのワクチン接種は、種類によって対応が異なります。例えばインフルエンザワクチンは接種が推奨されています。2009年に新型インフルエンザが大流行した際は、妊婦は優先接種の対象でした。しかし、麻疹・風疹ワクチンなどの生ワクチンは、基本的には妊婦には接種できません。生きたウイルスがワクチンとして体内に入るので、ウイルスが増えて胎児に何らかの悪影響を与える可能性が否定できないためです。
新型コロナウイルス感染は長期間流行している上、妊娠中の女性がコロナに感染した場合、重症化や早産のリスクが高まるとの報告もあります。米疾病対策センター(CDC)によれば、集中治療室の治療が必要になるリスクは約3倍、死亡率も約1.7倍に高まるとされています。妊婦は胎児の影響で呼吸への負担が大きく、免疫状態も低下していることなどが理由です。現時点では妊婦に対するワクチン接種に関するコンセンサスは得られていません。
しかし、最近になり科学的な調査結果も集まってきています。米メイヨー・クリニックは、140人がワクチンを受け、接種で妊娠や出産に関わる合併症は増えなかったと報告しています。米疾病対策センター(CDC)の研究者らの3万5,000人以上の妊婦のデータの分析では、ワクチンを接種した妊婦の自然流産や早産などの発生率は、コロナ流行前の妊婦とほぼ同じとしています。
また妊婦がワクチン接種して体内にできた新型コロナウイルスを無力化する抗体が、胎盤や母乳を通じて赤ちゃんに入るとの報告も相次いでいます。米CDCは、抗体が乳児を守るのに役立つ可能性があるとしています。米産科婦人科学会は授乳中の女性に接種を勧め、英ワクチンと予防接種に関する合同委員会も接種を助言しています。



日本でも、日本産科婦人科学会などが、5月中旬に提言を公表し、現時点では世界的に接種のメリットがリスクを上回るとしています。重症化しやすい肥満や糖尿病などの持病がある場合や、感染者数が多い地域などでは、積極的な接種をするように提言しています。しかし、胎児の器官ができる妊娠12週までは、念のため接種を避けるとよいとしています。

(2021年6月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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