上方比較と下方比較

上方比較とは、自分よりも上にいる人を見て「あんな風になりたいなぁ」と憧れる状態を示します。一方の下方比較は、自分よりも下にいる人見て「あいつらに比べれば自分はマシだな」と安心し、自尊心を高める状態を示します。人は正確な自己評価を得るために、他者と比較します。職場で同僚と比べたり、年収や学歴、そして容姿など他人と比較したりします。アメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガーは、社会的比較理論を提唱しています。
下方比較とは、自分より不幸であったり、優れていない人物や集団と自分を比較することです。自分より優れていない人を見て安心することができるのです。自信を喪失していたり、落ち込んでいる時に、人は下方比較をしがちです。自らの失敗談を話すことにより、相手の自尊心を保つことができ、自信のない嫉妬深い人たちに安心感を与えることができることもあります。これは、まさしく下方比較の威力ですが、こうした下方比較の状態が続くことは危険です。下方比較を生み出すのは内向きの攻撃であり、変化の阻害、つまり現状の維持に過ぎません。コロナ禍の米国でみられる黒人のアジアン・ヘイトも、下方比較の結果かもしれません。
危機の時代には必ず顔を出すこの下方比較という現状維持の力学に抗するには、上方比較の動きを支援することが大切です。モチベーションの低い人ほど下方比較をする傾向があり、モチベーションの高い人ほど上方比較する傾向があります。上方比較とは、自分より実力や実績を上げている人たちと比較することです。自分より優れた人物を比較することで、モチベーションを高め、達成への思いがより一層強くなります。コロナ禍では、下方比較でもっと苦しんでいる人がいるはずではなく、自分が置かれた状況は苦しい、もっと自らの環境を良くしたいと表明することが大切になります。上方比較をすることによって気持ちを奮い立たせることが必要となります。
最近のSNSの炎上や自粛警察などは同調圧力とか相互監視と言われていますが、わが国は下方比較の国と言ってもいいでしょう。その国民性により、コロナ感染者や死亡者は、諸外国に比べ低く抑えられてきたとも言えると思われます。しかし、コロナ禍により明らかになったのは、都合の良い現実だけを見てきたこれまでとは異なる、国際政治における日本の立ち位置です。他の先進国に比較し、国民へのワクチン接種率も圧倒的な低さも一例です。こうした現実を直視し、上方比較の国へ変革していくしかありません。

(吉村 やすのり)

 

 

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