不妊治療の保険適用について憶う

不妊治療は現在、排卵誘発剤を使う治療など保険適用の範囲は一部にとどまっています。体外受精や顕微授精といった高度生殖医療は、公的保険の対象に含まれていません。子どもを望みながら妊娠できない夫婦の金銭的負担は重いものがあり、菅首相は少子化対策の一環として保険適用を拡大すると打ち出しています。
不妊治療の現在の助成金制度は、体外受精や顕微授精に対し、初回は30万円、2回目以降は15万円を最大6回まで補助しています。治療開始時の妻の年齢が43歳未満(新型コロナウイルス感染拡大を受けた特例で現在は44歳未満)であること、夫婦合算の所得が732万円未満であることなどが条件となっています。
不妊治療への子どもを持ちたいクライエントにとっての保険適用は、経済的負担を取り除くという観点から重要な施策となります。しかし、現在の生殖医療においては、患者個人の病状に適した個別化医療が実施されており、その対象範囲や施術内容も異なっており、一律に保険適用には一定期間の慎重な議論が必要となります。不妊治療の保険適用拡大が実現するまでの当面の間、既存の助成金制度を増額し、患者の負担を軽減することは大切です。
体外受精や顕微授精などの生殖医療は、自由診療のため医療施設ごとに異なる金額が設定されています。また生殖補助医療には、医師、看護師の他、胚培養士や臨床心理士、不妊カウンセラーなどが従事しており、これら一連の診療過程を医療保険で技術料として算定することは困難が伴います。自由診療であるがゆえに、高度な先進的な生殖医療が受けられるようになってきたことも事実です。一律の保険適用が、医療水準の低下や、施設減少に伴う医療アクセスの困難性につながることも危惧されます。
不妊治療の保険化が少子化対策の根本的な解決につながるとは思えません。不妊カップルのみならず、子どもを持ちたいと望んでいる若い世代に、安心して子どもを持てるように雇用の安定を図るなど、何よりも経済的支援が必要です。さらに子育て負担が女性に偏らないように、男性の労働環境改善により、家事育児参画を進める施策に取り組むべきです。少子化はわが国の喫緊かつ最大の課題です。コロナ禍で若い世代に経済不安が高まっており、さらなる落ち込みが心配です。今回の組閣で、少子化対策がどの大臣が担当されるのか明確でないのが気になります。

(吉村 やすのり)

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