不妊治療目的の核移植

 ウクライナの首都キエフの不妊治療施設のチームは、第三者の健康な卵子を使った受精卵から核を除き、依頼者の受精卵の核を移植する前核移植と呼ばれる手法で、現地の女性2人の妊娠に成功したことを発表しました。来年初めにも出産予定です。先月末に米国の医師らが遺伝的に3人の親を持つ男児の出産に成功したことが判明しています。米国の症例はミトコンドリア病対策が目的でしたが、今回は不妊治療のため、より安全性や倫理的な問題を巡り論議を呼びそうです。
 今回の報道では、不妊治療の目的が明確でないため、正確なことは言えませんが、今後は卵子の若返りのために核移植が行われる可能性がでてきます。この手法は、細胞のエネルギー源を合成しているミトコンドリアが、加齢などで機能低下して不妊になるとする考え方に基づき、健康なミトコンドリアと置き換えることで卵子の若返りを図っています。ミトコンドリアには核とは別に独自のDNAがあり、母親からのみ継承されるため、子どもは3人の遺伝子が受け継がれることになります。核移植技術については生まれてくる子どもに及ぼす影響や安全性など、医学的にも倫理的にも大きな問題を包括しており、今後は実施の是非や適応を含め慎重な議論が必要となります。

(2016年10月12日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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