人口減前提の成長モデル

経済成長は、消費などの需要面ではなく供給面、具体的には労働力、資本、技術力の3要素の持続的増加により実現されます。成長に貢献する資本は、設備や機械、無形資産などからなる物的資本、そして人々の持つ能力を指す人的資本の2種類で主に構成されます。
日本では、資本、特に物的資本の蓄積の度合いが、他国に比べ不足しています。物的資本の増加率と労働者1人あたりのGDPの伸び率との関係をみると、日本は人口が減っているにもかかわらず、人口1人あたりでみた物的資本の伸びも極めて弱いことが分かります。これは、日本経済の低迷がある意味必然的なことを示唆しています。労働力が減少する中で、経済を成長させるには、まず物的資本の増大つまり設備投資が欠かせません。
ウクライナ危機や円安に伴うエネルギー価格の高騰は、日本経済に重くのしかかっています。市場経済の基礎であるエネルギーの多くを輸入に頼る中で、価格高騰が続けば、日本製品の持つ付加価値が全体として下がる恐れが出てきます。この状況下で日本経済の持続的成長は到底望めません。
資本蓄積のための設備投資は経済発展に必須ですが、それだけでは十分でなく、技術力の向上つまり技術革新も欠かせません。意外にも日本の技術水準の最近20年の伸びは、資本と異なり、他の先進国と比べ劣っていません。しかし、人口減少によりアイデアの蓄積を通じた技術革新が起きにくくなり、結果として経済が停滞する恐れがあります。人口減少下で経済成長を続けるには、技術革新のエネルギーとも言える人々の能力、つまり人的資本の水準を、教育・人的投資を通して向上させる必要があります。
日本の学校教育、特に初等・中等教育の水準は高く、OECDが実施する学習到達度調査の順位も先進国でトップクラスです。しかし、大学や企業での教育には課題が残されています。企業での人材投資を生かすために、大学教育についても変革が必要です。これまで大学のカリキュラムは、主に学術研究の基礎教育として位置付けられてきましたが、今後は企業での教育プログラムとも連動し、就職後必要となる技能の取得に寄与するものに変えるべきです。
これからの日本を、様々な投資を通じて物的・人的双方の資本が蓄積され続けるような社会に変えることができれば、例え人口が減っても持続的な経済成長は十分期待できると思われます。

(2023年3月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。