保健所の役割の見直し

保健所は、地域保健法に基づいて都道府県や政令指定都市、中核市などが設ける施設です。似た組織として、市町村には健康相談など住民に身近なサービスを業務とする保健センターがあります。国内では、1937年に初めて設置され、結核対策がきっかけで、その後ほかの疾病対策に役割を広げました。設置数は1992年の852カ所をピークに、2020年は469カ所まで減少しています。地域保健法が1994年に制定され、保健センターと保健所のすみ分けが進んだためです。

保健所の運営主体は、都道府県、政令指定都市、東京23区など地域によって異なります。国ではなく、それぞれの首長が任命権を持ち、業務を指示します。しかし、コロナ対応では厚生労働省からも多数の通知が出され、保健所に対応を迫りました。検査方法や治療法の見直しなどをメールなどで通知したものの、直接の指示権限はありません。
保健所長は原則、医師が就きます。自治体の指示に従うか、医療の専門家として厚生労働省の指示を優先するか、保健所長は板挟みになって権限の空白が生じやすくなっていました。感染初期には、積極的疫学調査を重視する厚生労働省が、クラスター対策を促し、保健所の人手が必要な検査に回りにくい目詰まりを生みました。
新型コロナウイルスへの対応では、感染経路の追跡や入院調整で負担が増し、施設間での情報共有も課題になりました。状況を改善するためには、緊急時の医療体制を巡って複雑に絡む指揮系統を整理する必要があります。今回の骨太方針では、より強力な体制と司令塔の下で推進するため、厚生労働省や総務省でなく、内閣官房など首相官邸に近い組織に権限を与えることとしています。

(2021年6月10日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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