健康格差と社会環境

 わが国は、1980年代から世界一の平均寿命と健康寿命を維持しています。しかし、日本の健康寿命は、1990年の70.4歳から2015年には73.9歳にまで伸びていますが、伸び率は2010年以降鈍化傾向にあります。今後、世界一の座から転落する可能性も指摘されています。さらに、都道府県間の健康格差は拡大しており、2015年の健康寿命の格差は2.7年もあります。また、社会階層を示す所得や学歴においても健康格差が生じています。
 東京大学の渋谷健司教授は、健康格差には個人を取り巻く社会環境が大きな影響を与えているとしています。健康格差を巡っては、貧困層の健康問題だけではなく、相対的な社会格差による健康格差にも注目が集まっています。所得が一定水準に達すると、それ以上所得が増えても必ずしも健康増進につながらないことが示されており、教育や幼少期の体験など所得以外の格差が健康格差の要因になっている場合もあります。社会格差をどう規定し定量化するかも問題です。学歴によって喫煙などの健康リスクの格差があることはよく知られていますが、それは教育を通して得られた知識によるものなのか、学歴が規定する社会階層の影響なのか、あるいは教育を受けることのできた条件なのかなど様々な要因があります。
 急速に高齢化が進むわが国では、医療のあり方が専門細分化した病院での治療から、地域での包括的ケアや生活支援へとシフトする中で、健康と社会との関係を政策レベルで再定義する時期にきています。健康とは日常の生活環境の中から創り出されることを再確認すべきです。居住環境や労働環境が健康のリスク要因となるべきではなく、自然に人々が健康になるような社会・まちづくりを目指すべきです。保健医療は社会から独立して機能するものではなく、介護はもとより、まちづくりや生活のあらゆる側面と有機的に連動するものへと変化しています。

(2018年1月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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