働き方改革の必要性

2019年4月から、働き方改革法のうち残業の上限規制が実施されます。時間外の上限について月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間が限度となります。なぜ、今、日本経済にとって働き方改革が必要なのでしょうか。
現在、男性が長時間働いても、1人で家族を支える生涯賃金を得られる見通しが持ちにくくなってきました。金銭面からも、育児休業制度などの社会的保護が不十分なことからも、若い世代の男女にとって家族形成が困難になってきています。女性が稼得能力を維持しつつ、子どもを持てる働き方と社会保障をつくり出すには、男性を含めた働き方の見直しが必要になってきます。
日本では、男性が長時間労働をする一方で、女性は出産を機に離職し、その後は最低賃金近くで非正規で働く者がいまだ多いのが現状です。女性の稼得能力を引き上げるには、長時間労働を当然とする働き方を改革し、女性の正社員の就業継続の奨励や、非正社員と正社員の賃金格差を縮小させることが重要となってきます。
日本的雇用慣行にもひずみが出てきています。企業側が長期雇用を保障し、年功的な賃金制度をとるため、企業側に強い残業命令権や配転命令権が与えられることになります。さらに長期雇用なので、その時々の仕事内容よりも、年功的な職能資格で賃金が決められてきています。しかし若年人口が少数となり、中高齢人口が多数を占めるような人口構造では、企業にとって中年期に賃金が大きく上がる賃金制度の維持は難しくなってきています。そのため企業は正社員採用を絞り、非正社員の採用を増やしていったという現状があります。
これまでの働き方改革も一定の成果を収めてきています。正社員女性の出産離職が大卒中心に減っているほか、女性正社員だけでなく、男性正社員の労働時間についても、特に子どものいる層を中心に減少しています。育児休業取得が増え、育児短時間勤務も法制化されるなど、特に幼い子どものいる女性正社員の労働時間は目立って減ってきています。また、幼い子どもを持つ男性の労働時間は、より大きく減ってきています。しかし、男性が家庭時間を持ち、女性が働きやすくなるにはまだその道のりは遠く、子育ての父親参加は限定的です。同時に正社員と非正社員の格差縮小も重要なテーマです。

(2019年3月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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