光遺伝学の臨床応用

神経活動を光で操作する光遺伝学を活用すれば、既存の遺伝子治療の限界を突破できる可能性があります。目の難病である網膜色素変性で、病気の原因遺伝子の代わりとなる正常な遺伝子を患者の網膜に導入し、視覚を再生する遺伝子治療が海外では実用化しています。フランスのジェンサイト・バイオロジクスや、米バイオニック・サイトは、特殊なゴーグルや眼鏡を併用する手法を開発しています。
網膜色素変性は、遺伝子の変異によって、目の網膜で外から入ってきた光を感知するセンサーの役割を果たす視細胞に障害が生じる進行性の病気です。暗い所で見えにくくなる夜盲や、見える範囲が狭まる視野狭窄が起きます。病気の進行とともに視力も低下し、最終的に失明する場合もあります。国内の患者数は約3万人、世界では150万人以上と言われています。
光センサーのたんぱく質であるキメラロドプシンの遺伝子を網膜の中にある双極細胞に導入して、視覚を再生します。双極細胞は、通常視細胞からの信号を処理して中継する役割を持っています。光遺伝学を活用した遺伝子治療は、原理的には原因遺伝子の種類を問わず適用できます。視細胞を失った患者でも、他の細胞に遺伝子導入できます。慶應義塾大学の研究チームは、遺伝性の目の難病で失明や視力低下した患者に対し、視覚を再生する治療の臨床試験を2024年度にも始めます。

 

(2024年2月16日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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