免疫の記憶が重症化を防ぐ

新型コロナが登場する以前から流行する従来型のコロナウイルスに感染した免疫の記憶が、新型コロナウイルス感染の重症化を防いでいる可能性が示唆されています。新型コロナに感染経験がない人の体内から、新型コロナをたたく免疫細胞が相次いで見つかっています。こうした免疫を持つ人は、全体の2~5割にいるとされています。ウイルスなど病原体に感染すると、再び感染しないよう体内の免疫が、その病原体の特徴を記憶します。ウイルスに再び感染すると、この記憶によって抗体が働くほか、T細胞と呼ばれる免疫細胞が増えて病原体を攻撃します。
コロナウイルスは新型以外にも複数の種類があり、感染すると風邪や肺炎を起こします。免疫がないはずの新型ウイルスに感染しても、以前から存在するコロナウイルスに感染した記憶が素早く働いて、重症化を防ぐ可能性が考えられています。こうした過去に感染した記憶による働きは、交差免疫と呼ばれています。
交差免疫は、インフルエンザウイルスなど他のウイルスでも確認されています。T細胞による交差免疫の働きが、10年以上の長期に続くという研究成果も出ています。2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)から回復した人のT細胞を調べると、新型コロナウイルスを排除する働きを示しています。
新型コロナへの免疫としては、抗体が先に注目されました。一度感染したりワクチンを接種したりして体内に抗体ができれば、新たな感染をしないと期待されるからです。しかし、感染が広がるストックホルムの調査でも、抗体保有者は16%にとどまっています。抗体は、2~3カ月しか持続しないという報告もあります。交差免疫によってT細胞が免疫として働ければ、流行の終息に6割の人が免疫を獲得する必要があるとされる集団免疫の達成時期の見積もりも変わってきます。

(2020年8月21日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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