内密出産における行政の対応の必要性

熊本市の慈恵病院は、匿名を希望して出産した西日本の10代女性の赤ちゃんについて、病院が母親の名前を記さずに出生届を出す国内初の内密出産に踏み切る意向を表明しました。内密出産は法律の定めがありません。出生届や戸籍の扱いなど課題は山積しており、行政側の対応が焦点になります。
戸籍法は、親の名前を記さずに出生届を出すケースを想定していません。内密出産では、病院の担当者が母親の身元情報を把握しているのが前提で、院長が名前を空欄のまま出生届を出した場合、刑法の公正証書原本不実記載罪に当たるおそれがないか法務局の見解が待たれます。母親名が無記名の出生届が出されれば、熊本市が受理して戸籍を作るかが次の課題となります。病院は、親が分からない棄児の場合に準じて、赤ちゃん単独の戸籍を作ることが想定されます。
女性は、赤ちゃんが18~20歳になった頃に出自を明かす意向で、それまでは病院が女性の身元情報を管理するとしています。内密出産は、女性が病院の担当者だけに身元を明かし、後に子どもが望めば出自を知ることができる仕組みです。知的障害があったり親からの虐待を受けたりして、妊娠後に相談できない女性らを支援する狙いからも、内密出産は考慮されるべきです。

(2022年2月5日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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