出生前診断を考える

胎児に異常があるかどうかを調べる出生前診断は、1960年代の染色体など赤ちゃんの遺伝情報を調べることから始まっています。最初は子宮に針を刺して調べる羊水検査で、流産のリスクは0.3%前後にみられました。1990年代には妊婦の血液から、異常のある確率が推計できるようになり、2013年には精度の高いNIPTが登場しました。年間約1万5千件が実施されています。NIPTは、これまで日本産科婦人科学会(日産婦)や日本医学会など関連団体5団体が、十分な遺伝カウンセリングができる態勢があるといった条件を満たし、認定を受けた医療機関のみで実施されてきました。
しかし、DNA解析は検査会社が行い、医療機関はカウンセリング以外は採血だけで済むため、2016年から認定外の医療機関もNIPTを手掛けるようになっています。内科をはじめ美容外科や皮膚科など産婦人科以外の診療科で、十分なカウンセリングもせず検査されています。2016年以降、認定施設のNIPT実施件数は減少傾向にあり、相当数の妊婦が認定外施設で受けているとみられます。認定外の医療機関で検査を受けた妊婦には、郵送で結果が送られるだけで十分な説明を受けられずに、結果の意味が分からないなどと、認定施設に相談してくる人も多くなっています。
日産婦は、こうした状態を問題視して、今春産婦人科クリニックなどもNIPTを実施できるように、実施施設の認定要件を緩和する指針案を作りました。常勤の小児科医がいることなどを条件とする認定要件では、クリニックが認定を受けるのが難しいからです。これに対し、日本小児科学会や日本人類遺伝学会などは、十分なカウンセリングをすることなく検査をすることになると、反発しています。そのため厚生労働省が介入し、専門委員会を作って今年10月にも、NIPTのあり方について議論を始める事になりました。学会レベルではなく、厚生労働省で出生前診断について議論されるのは約20年ぶりです。
胎児の染色体など遺伝情報に関する検査は、NIPTだけではありません。他の検査も含めた遺伝学的検査全体を周産期医療の中でどう位置付けるかという原則について、きちんと議論する時期にきています。出生前診断には、NIPTのほかに、20年前に議論の対象になった母体血清マーカー検査や、羊水検査などもありますが、NIPT以外を実施する施設については、認可制度は無く、実施件数や結果についても登録制度がないなど、検査の種類によって施設の実施の態勢が異なっています。
出生前診断で異常が発見された場合、9割前後の女性が人工妊娠中絶を選択しています。現時点では母体保護法のもとで中絶が実施されていますが、胎児の異常が理由での中絶は認められていません。出生前診断については、母体保護法における胎児条項も含め、女性の生殖の権利(リプロダクティブ・ライツ)をどのように考えていくべきかも踏まえた上での議論が必要となります。

(2019年9月30日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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