医師の働き方改革

厚生労働省は、勤務医に適用する残業時間の上限規制の枠組みをまとめました。2024年4月から適用されることになります。一般の医師の上限は、原則は年960時間(月平均80時間相当)とし、休日労働を含めた一般労働者と同じ長さにしています。一方、地域医療の維持に不可欠な病院は、2035年度までの特例で、年1,860時間としています。救急車の受け入れが年1,000台以上の2次救急病院など、一定の要件を設け、都道府県が選定します。対象は全国で1,500カ所程度と見込まれています。技能の向上が必要な研修医らには、地域医療と同様の水準を設定しています。
これら年間1,860時間の残業が適用される医師には、健康確保のための措置が義務づけられます。連続勤務時間は28時間までに制限した上で、終業から次の始業まで9時間のインターバル(休息)を取らなければならないことになっています。厚生労働省が年1,860時間の根拠としたのは、勤務医の約1割の残業時間が、年1,900時間を超えているといった実態があったからです。地方の中核病院などで厳しい規制を設ければ、日本の医療提供体制が立ち行かなくなってしまうからです。
しかし、一般的に月80時間の残業は過労死ラインとされ、今回の上限はこれの約2倍に匹敵します。長時間労働の根本にあるのは医師の偏在です。医師の数は増えており、2016年度末で約32万人にも達しています。2028年頃には医師不足は全体で解消される見通しです。しかし、仕事が多忙な外科と産婦人科の医師の人数は、なり手が少ないため20年前とほとんど変わっていません。偏在は都市部と地方でも生じています。医師不足はが解消された2036年時点でも、東京では2万6千人余る一方で、福島、新潟、埼玉では500人以上不足するとの推計もあります。医療提供体制の偏りが、一部医師に負担を強いる構造が作られています。
厚生労働省は今後、長時間労働させている医療機関には、短縮に向けた計画作成を義務づけ、長時間労働の要因を分析して、指導する仕組みを作ろうとしています。2024年4月の規制が適用されるまでの間に、医療業務の効率化や看護師らへの業務移管に取り組む必要もあります。医師の長時間労働の是正のためには、医師の地域偏在と診療科の偏在にメスを入れないかぎり、いつまで経っても解決されません。

(2019年3月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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