医師の都市集中

 医師の数は2014年現在全国で約30万人で、人口10万人あたり233人であり、OECDの中でも極めて低率です。諸外国と比べて総数は十分とは言えませんが、地域格差が大きな問題になっています。人口10万人あたりの医師数が多いのは、東京、大阪、京都、福岡など都市部です。東北6県は全国平均を下回り、福島は188人です。一方、四国4県は平均を上回るなどばらつきがあります。
 医師の偏在に拍車をかけたのは、2004年度に導入された新医師臨床研修制度です。医学部卒業生の臨床研修は従来、出身大学の附属病院で実施していました。教授を頂点とする医局と呼ばれる組織が人事権を握り、関係の深い病院へ医師を派遣し偏在を調整していました。卒業生が自由に研修先を選べる新制度は、経済学のマッチング理論を応用し、卒業生と病院が希望を出し合える画期的な仕組みと考えられていました。しかし、研修内容が充実する東京の病院などに人気が集まり、医師の都市集中に拍車がかかりました。
 日本医師会と全国医学部長病院長会議は昨年末、医師の地域偏在を解消するための緊急提言をまとめています。また全日本病院協会は、地域の核となる基幹病院と中小の病院が連携する地域圏構想を提唱しています。しかしこれらの施策が、東京など都市圏への医師の集中の歯止めになるかどうかは未知数です。若い研修医にとって魅力あるプログラムを作製しない限り、地域偏在をなくすことはできません。良質な専門医を育成するための教育システムと地域格差という矛盾する問題を解決するための方策を立てることは困難を極めます。今回の新専門医制度では、良医を育成するためのプログラムを学会を中心に考えてきましたが、日本医師会や様々な病院協会が地域格差を増長されるとして反対をしてきました。それにより新しい制度の導入はされないことになってしまいました。


(2016年7月3日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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