国民投票の是非

 国民投票という制度は、主権者である国民の意思を直接確認するという意味で、正統性を持つように見えます。しかし、大きな問題は、主権者一人一人に、十分に的確な判断ができるだけの情報が与えられているかという点があります。立場によって、情報量も、吸収する意見も、情報への評価も違います。情報といっても、等しく客観的に一種類の情報があるわけではありません。複雑さの中で、的確な選択ができるのかという問題が残ります。
 国民投票は直接民主制の範疇ですが、わが国も含めて現代の通常の政治システムは代議制であり、主権者が代表を選び、代表が選択を行うシステムです。国民投票を制度化している国は、スウェーデン、スイスなど少なくありませんが、政治家が厳しい決断をしなくなる傾向になりやすくなります。難しい問題があると、直ぐに国民投票に持ち込むことになります。国民投票は予測が難しく、予期せぬ結果に陥りやすい危険性があります。近年、民主主義国家では、ポピュリズムと排外主義が横行し、国内問題が解決できない原因を、外部に求める傾向が強まってきています。合理的な判断より、国民は主権回復という情緒的な物語に流される傾向に陥りやすくなります。
 一定の範囲内で国民投票があっても良いと思いますが、今回のイギリス国民のEUからの離脱を決めた判断をみると、国民投票の危うさを感じます。特に離脱・残留両派が拮抗している場合には、国民投票が果たして優れた意思決定のシステムかどうか疑問が残ります。

(2016年6月26日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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