失われた30年

日本の名目GDPがドイツに抜かれ、世界4位に落ちました。円安の影響があるとはいえ、バブル崩壊から続く失われた30年の低成長がもたらした結果です。米国や中国とは大差をつけられ、経済大国の地位は弱まるばかりです。
高度経済成長の勢いに乗った日本は、1968年に西ドイツをGNPで上回り、世界2位の経済大国となりました。日本経済が絶頂期を迎えた1989年の年末の納会で、日経平均株価は3万8,915円の最高値をつけました。しかし、その頃には人口減の兆しが見えていました。1人の女性が生涯に産む子の数を示す合計特殊出生率が1.57となり、戦後最低になりました。

バブル崩壊の傷が癒えず、人口も減ってゆく中、自動車や素材など競争力がある産業を除けば、ものづくりの空洞化が進みました。さらに国内投資を怠ったことで、デジタルなど新しい分野の開拓が遅れ、労働生産性も高まりませんでした。生産性が低ければ賃金も上がらなくなりました。歴代政権は日本経済の長期低迷を脱しようと、様々な手を打ってきました。しかし、十分な効果は表れず、失われた10年は20年となり、そして30年となりました。大きな理由の一つは、少子化の進展を食い止められなかったことです。
所得が伸び悩む日本は、豊かさの目安となる1人あたりの名目GDPでも差をつけられました。国際通貨基金の試算では、2023年の日本の1人あたりの名目GDPは約3万4千ドルで、世界34位です。G7中最下位で、平均よりも大幅に低くなっています。先進国の中でも賃金水準が低い上に、円安で一段と見劣りするようになりました。
最近の企業業績は絶好調で、2月15日の日経平均株価の終値は約354年ぶりに3万8千円台をつけました。バブル期に記録した史上最高値をうかがう勢いで、日本は失われた30年のトンネルから、ようやく抜けたかのように見えます。しかし、急激な物価高に対応できず、節約志向が消費を鈍らせています。個人消費はGDP半分以上占めるだけに、景気の先行きには不安が残ります。株高だから消費が増えるかと言えば、大きな期待はできません。

 

(2024年2月16日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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