子どもをもつということ - がんと妊娠を考える -Ⅷ

がんサバイバーが子どもをもつこと
がんサバイバーにとって、産めないことを受け入れる勇気をもつことも必要です。がん治療により妊孕性を喪失することもあり、全てのクライエントが生児を獲得できるわけではありません。子どもを産み育てることは、人として自然な営みであり、産むことと育てることを連続する事象で捉えていますが、がんサバイバーにとっては、妊孕性温存以外の選択肢も必要となることがあります。特別養子縁組と里親制度は、血のつながりのない子どもを迎えて親になる道を提供しています。
子どもを産めない事実に向き合わざるを得ないがんサバイバーにとって、特別養子や里親制度といった選択肢があることを知らせることは大切です。がん生殖医療に携わるがん治療医や生殖医療専門医は、これらの制度に対する知識が乏しく、クライエントに十分な情報提供ができていない状況にあります。がんを克服し子どもを養育できる状況であれば、特別養子縁組の養親になることは可能であり、育ての親になることは、自らが子どもを産めない事実を受け止める主体的な選択といえます。しかし、これらの制度はがんサバイバーのためのものではなく、子どものためであることを忘れてはなりません。
がん治療と生殖医療の進歩により、妊孕性温存できるクライエントが増加してきています。がん・生殖医療の目指すところは、担がん患者の専ら妊孕性温存にあるのではなく、子どものいない人生の選択を含め、子どもをもつことの趣意を見つめ直すことにあります。がんと向き合い、妊娠・出産し、子育てをしたいと思うクライエントをいかに支援できるかが、今後われわれに課せられた命題です。

(吉村 やすのり)

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